UNHALFDRAWINGEye Wear “Existence” from Echizen
越前 眼鏡 見在 Bézier 13
「真の発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい目を持つことだ。」マルセル・プルーストのその言葉のように、手強い山と対峙する強烈な山行を経験すると、目の前の景色がしばらく大きく変わって見える。
頰の感覚がなくなる強風、いつまでも見えない頂上。冷たい激流の流れ、寄せつけない花崗岩の硬さ。焦り、恐怖、安堵、そして開放感。様々な感情が濁流のごとく押し寄せる。ふと、遠くを見つめた先はいつもと違う色彩の景色が広がっていた。
見在(げんざい)とは今、目の前に存在している景色そのもののことを意味している。だが、そのレンズを通して同じ景色が、どのような色で見えるかは装着した人それぞれによって全く異なる。
VANLIFEやミニマル装備での旅を軽やかにこなすライフスタイルの中にアウトドアが浸透した近年、Bézier 13のようなティアドロップの特徴的なフレームを好む米国人が多くなった。
この眼鏡は海千山千會の同人立沢と鯖江の眼鏡デザイナーMEGANEROCKの雨田氏という強烈な二つの個性から作られた。メールで13回、アドビ・イラストレーターのベジェ曲線を修正して作られ、一見キワモノに見える特徴的な形だが日本人が男女問わず普段からかけれるティアドロップの仕上がりに驚く。
“なんとか”は旅と人情とやせ我慢。とはBézier 13のための発売イベントTRAVEL IS HOMEのキャッチコピーだ。
強い人ほど優しく大きな心。山の技術がある人ほど謙虚。
SNS優勢の現代において忘れがちなものをこの眼鏡越しに見つけてはどうだろうか。
海千山千會 千代田高史
Dark Brown
Light Brown
見在とは私たちが眺めている世界の今を相対化するというテーマで、MEGANEROCK雨田大輔氏と作っている眼鏡だ。
ティアドロップ型のセルフレームからは俳優の丹波哲郎や映画監督の大林宣彦らをイメージされるかも知れない。だが今回のベジェ13には明確なモデルが存在する。
日本が大きく変わろうとした1982年、市川森一脚本『淋しいのはお前だけじゃない』という TBS系列で放送されたテレビドラマがあった。そこで主演の西田敏行演じるサラ金取立て屋、沼田薫がティアドロップ型のサングラスをかけていた。
沼田は苛烈な手段を用いて借金を抱えた共演者たちを追い込んでゆく。その時沼田が眺めていた世界はヤクザなサングラス越しに存在していたのではないだろうか。
しかし沼田は幼い頃に恩を受けた旅芸人一座を助けたことから、自ら返済人たちの連帯保証人となり、彼らを率いて大衆演劇一座を旗揚げする。超高金利に膨らむ莫大な借金を抱え、生存の危機を背負いながらも切り盛りしてゆく。
人情や任侠、正義がパロディ化しつつあった1982年という時代において、このような人間ドラマが放送された意味は大きいと思っている。
2022年格差や分断、暴力がコロナ禍で雨後の筍の如くという様子を私たちは日々目撃している。そうした環境にいて世界を眺めていると、知らずに慣れてしまうものでもある。どこか諦めてしまうのだろうか。
けれどそんな自分に暫し待ったをかけてくれる眼鏡になって欲しいと作った。
海千山千會 立沢木守
MEGANEROCK
雨田大輔によるブランド 1980年鹿児島県生まれ
2007年福井県鯖江市に移住。
2014年独立『MEGANEROCK』立ち上げ。
眼鏡のデザインから施行まで自らの手で作り上げる。
その一貫したものづくりスピリッツに国内外に多数ファンを持つ。