Wooden cover of the Kitchen god薩摩
木蓋
竈門神/神の鼻
秋廣琢 / 彫刻家
アキヒロウッドワークス第三の芽
主に木彫造形を造作模索しています。
空の間、多様な空間にフィットする彫刻を提案します。
UNHALFDRAWINGのタビ鉄は中華鍋で愛用者の多い山田工業所に製作をお願いしている。
この鍋は常温の鉄板をハンマーで叩く打出しという技術で作られている。
これはイソガワクミコさんが作る銀の鈴『千鈴』と基本的に同じだ。
大量に同じものを作るのにはプレス加工が合理的だろうが、
海千山千會は人が掌で握った槌で叩くものに何故か強烈に惹かれる。
一般的に中華鍋は揚げる炒める蒸す煮るなど万能調理器具だが、
山で調理をすることを念頭に置いたコンパクトなタビ鉄は、
湯沸かしするという行為自然なものであり必須である。
結果中華鍋に蓋は不必要だが湯沸かしには蓋が必要になる。
基本的にタビ鉄の蓋は各々が調達すれば良いと考えて作った。
一般的な鍋の規格サイズに合わせデザインしたので、
市販のサワラ木蓋などを求めても、丸太を輪斬りにしたっていい。
道具とは使う人の都合で手を加えてゆくものであろう。
タビ鉄は野外調理器具に相違ないが、
忘れてならないのが火を炊く処は祀られる場、
また異界とのきわであったということだ。
食べることは生と死が重なった行為であり、小さな再生と捉えても良いと思う。
秋廣琢氏の信仰は知らないが、ただ彼がキリストや神の存在に対して、
またその偶像にクリエイターとして強い関心があるのは、彼の「田の神」作品に顕かだ。
私は彼の中で吟醸されつつある性格と性質が、
形を持って姿となり外に現れたとき、
人々を和やかな気分にさせることが何より素敵だとずっと思っていた。
鍋の蓋にもなる秋廣琢氏に火の神の面をお願いしたのは、
魔除けの恐ろしい形相の竈門神ではなく、
どこかユーモラスで親しみやすい神さまを彫ってくれだろうと信じていたからに他ならない。
海千山千會 立沢木守
竈門神
神の鼻
超軽量登山道具というミニマリズムと実質的な軽さがもたらす
身体への負荷の軽減においてクッカーにおいてはチタンが一番優れているものとされている。
しかし肉や野菜を焼くこと、煮ることにおいて鉄にかなう素材はなく
米炊きも一度鉄鍋で上手に炊いた米を体験すると
特別な道具としてのポテンシャルに改めて気付かされる。
秋廣琢氏がひとつひとつ彫り上げる竈門神も神の鼻も
弱火にするサインを鼻からの派手な湯気が教えてくれる。
コトコト弱火と煮込む時は独特な湯気のリズムを見つめるのが楽しい。
“食べること”を挑戦的な山行では補給として捉えるのが一般的だが
タビテツでは多様な料理が出来上がるので
隣には見守ってくれる神様が必要なのかもしれない。
元来日本の竈門の神は気難しいとされているが
秋廣琢の神たちはどうだろう?
海千山千會 千代田高史