GENTEMSTICK TT168
"Indigoblues"
シリーズの後発としてのTT168はワイズこそTT160と同様だが、シルエットは165classic のバランスに近い。
その168は体格のあるclassicユーザーのオーダーでデザインされ2005年に真っ赤なフェラーリレッドを施され産まれ出た3本のみのプライベートモデルが元になっている。
原料であるコウゾを徳島の藍で染めた手漉き和紙をトップに敷き、樹脂をしっかり馴染ませ、グラスラミネートしたモデルをテストして来たが、しっかりとした樹脂の重みと粘りが安定性と安心感をもたらす新しい感覚のTT168となって完成した。
当初、手漉きの質感が表現出来ない事に、何らかの方法がないものか、考えあぐねていた。グラスファイバーでラッピングしないと乗り物としての性能が発揮出来ない。乗る事の出来ない板を作る意味は無いからだ。
手漉き和紙の最大の特徴である荒めのコウゾが接着性に良い影響を与えるか?悪く出るか?極薄のグラスで紙の表面の特徴を失われない様にはならないものか?丸2年の試行錯誤が続いた。
分厚い樹脂の中に自然の営みを、まるで銀塩写真の様に閉じ込めた。
藍に染まった荒めのコウゾが同じものがひとつとして無い、25周年記念モデルに相応しい仕上がりとなった。
GENTEMSTICK 玉井太朗
好きな光景のひとつに明るい雲天の雪景色がある。椀型のなだらかな雪山をとり囲んだ雲が、背景のない畫のように見せてくれる。その静かな余白を愛しいと思い続けていた。手漉き和紙たにのの工房では、地元の楮(コウゾ)を晒して白くしていた。谷崎潤一郎が言う生漉きの和紙のたねが、井戸水のなかで雪溶けシャーベットのように見えた。漉雪(したゝゆき)という言葉に魅せられ、GENTEMSTICKの美しいスノーボードにそれを閉じ込めようと考えていた。だが生漉紙は樹脂のなかに溶け去って仕舞った。正直落胆を隠せなかった。日本の美しい情景を捉えることができなかった。
しかしぼくは和紙の谷野さんや藍染の渡邉くんから気づきを与えられる。
『すべての営みには時がある』旧約聖書コヘレトの言葉。仕事は天と地と時によると心得て、彼らはどこか淡々としている。毎年同じように大地に向きあう姿を見て、執われた気持ちを水に流すことができた。
楮を収穫し外皮も残さず丸ごと徳島に送って、阿波の本藍で染めてもらった。再び埼玉に帰ってきた青い楮で大きな手漉き藍染和紙が完成した。そこには植物が生のままに存在していた。その色は陽が伸びた四月の雪山、夕刻前に見る空のような、北国に春を告げる最初のブルーに見えた。
海千山千會 立沢木守
2021年7月上旬、藍染を施してくれたWatanabe'sの渡邊健太氏の工房を訪ねた徳島の旅で、夜話しながら今回藍染和紙を入れるボードを選定した。"和紙を入れることで重くなった板は大人っぽい乗り味.懐かしい独自のものがある。TT168がいいんじゃない?"と玉井さんが遊佐さんに呟いた瞬間、僕はブワッと鳥肌が立った。TTは言うなればゲンテンの顔だ。長い間信念を持って続けてきた海千山千會の姿勢が正真正銘、新たな扉を開いた瞬間だった。
海千山千會 千代田高史
埼玉県でコウゾを育て、和紙を漉いている谷野裕子さん。徳島県でアイを育て、藍染をしている渡邉健太さん。二人に依頼したのは楮を藍で先染し、手漉き和紙にすること。完成したのは1.4X2.0メートルという巨大な藍染和紙だった。